オリンピック 出場4度目、悲願のメダル獲得を目指す寺内健選手の戦いを、振り返ります。
公式動画サイト
1.寺内健選手 成績詳細
| 順位 |
選手名 |
演技名 |
演技番号 |
難易率 |
演技点 |
得点 |
| 11 |
寺内 健 |
後ろ踏切前宙返り2回半・蝦型 |
405B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
| 前宙返り2回半・2回捻り・蝦型 |
5154B |
3.4 |
8.33 |
85.00 |
| 後ろ宙返り2回半・蝦型 |
205B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
| 前逆宙返り3回半・抱え型 |
307C |
3.5 |
4.67 |
49.00 |
| 前宙返り3回半・蝦型 |
107B |
3.1 |
7.50 |
69.75 |
| 前逆宙返り2回半・1回半捻り・蝦型 |
5353B |
3.5 |
8.17 |
85.75 |
| 合 計 |
19.5 |
@7.56 |
442.5 |
まず、最初に気が付くのは、演技の順番がいつもと違っていることです。
2000年のシドニー五輪以来、寺内健選手の演技順序は、
・205B → 305B → 405B → 5154B → 107B → 5353B
で決まっていたのですが、勝負の大技307Cを取り入れられたため、「その技で効果的に点をもらうため」、北京入りしてから、演技順を変更されたそうです。
これだけでも、この大会に懸ける寺内選手の強い思いが伝わってくる気がします。
前半の3本については、寺内選手としては十分な上出来だったと思います。
(本当は、他の決勝進出選手と比べて難易率でやや劣勢の寺内選手としては、各演技ともあと0.5~1.0ほど上乗せしたかったところではあります。ですが、上記の「公式動画サイト」をご覧いただくと分かりますが、十分に攻めた、会心の演技だったと思います。)
そして勝負の4本目、307C(前逆宙返り3回半・抱え型)。
先端はやや余したものの、それをものともしないハードルからの降り姿勢・飛び出し動作の決然としたさまは、この演技を決めるんだ!という寺内選手の決意が伝わってきて胸を打ちます。
通常このような大技は、オリンピックでいきなりやるのでなく、前回の五輪終了後4年かけて、世界選手権を含む大小の大会で使い続けて、技術的にも精神的にも十分磨きをかけて持ってくるものです。残念ながら、寺内選手はケガや連戦による蓄積疲労等で、その準備が思うように出来ませんでした。(今年に入って公式戦で使われたのは、唯一、4月の日本選手権の決勝だけでした。)
ですから、オリンピック決勝での一発勝負は、本当にしっかりとした演技が出来るのか、外野の私たちだけでなく、ご本人・馬淵崇英コーチにとっても不安が一杯だったと思います。
だからこそ、その不安をものともせず、ハードルでやや先端が余っても微塵の動揺も見せることもなく、決然として演技を続けられたことに感動したのです。
実際私は、飛び出されて前逆の回転が始まった瞬間、成功を確信致しました。
回転を終えて入水に向かう動作・姿勢も決然としたものでした。
結果は残念ながらショート(回転不足)でしたが、ずっと寺内選手の応援を続けてきた者として、納得の出来る結末でした。
5本目の107Bは、大の得意技で9点以上の演技点が期待されたんですが、やはり少し動揺が残っていたんでしょうか? やや不本意な演技だったようです。
最後の5353Bは、気を取り直されたんでしょう、会心の演技でこの4年間の戦いを締めくくってくれました。
2.試合結果(総括表)
| 順位 |
選手名 |
国・地域 |
難易率 合計 |
平均 演技点 |
得点 |
1演技 平均 |
| 1 |
HE Chong |
China |
20.2 |
9.45 |
572.90 |
95.48 |
| 2 |
DESPATIE Alexandre |
Canada |
19.9 |
8.99 |
536.65 |
89.44 |
| 3 |
QIN Kai |
China |
19.9 |
8.88 |
530.10 |
88.35 |
| 4 |
SAUTIN Dmitry |
Russian Fed. |
19.0 |
8.99 |
512.65 |
85.44 |
| 5 |
ROZENBERG Pavlo |
Germany |
20.0 |
8.09 |
485.60 |
80.93 |
| 6 |
DUMAIS Troy |
United States |
19.9 |
7.91 |
472.50 |
78.75 |
| 7 |
CASTILLO Yahel |
Mexico |
20.0 |
7.70 |
462.10 |
77.02 |
| 8 |
HAUSDING Patrick |
Germany |
19.5 |
7.90 |
462.05 |
77.01 |
| 9 |
NEWBERY Robert |
Australia |
20.0 |
7.68 |
461.05 |
76.84 |
| 10 |
URAN Juan Guillermo |
Colombia |
19.5 |
7.77 |
454.50 |
75.75 |
| 11 |
寺内 健 |
日本 |
19.5 |
7.56 |
442.50 |
73.75 |
| 12 |
COLWILL Chris |
United States |
20.4 |
6.96 |
425.90 |
70.98 |
それでは、寺内健選手の挑戦に対して、他の選手たちはどうだったか、見ていきましょう。
いやぁ、金メダルのHe Chong選手は凄過ぎです。
・6本飛んだ演技の平均の演技点が9.45!(10点満点で、です)
・1演技平均得点が95点超!
これでは誰にも太刀打ち出来ません。
それから、興味深いのは難易率です。
・もっとも難易率の低いサオーチン選手がメダルに僅差の4位
・もっとも難易率の高いCollwill選手が最下位
という事実です。
難易率は重要ですが、それだけでは勝負は決まらない、ということが分かります。
しかしまぁ、そうは言っても、持ち技の難易率が低いと、その分演技の出来ばえで補わないといけないプレッシャーを抱えて演技をすることになります。
従来の305B(難易率3.0)を307C(同3.5)に上げられて、難易率合計を19.0から19.5に上げられた寺内選手は、十分他の選手と戦えるだけの難易率を手に入れられたと言えると思います。
この総括表の「平均演技点」の欄を見ると、寺内選手の数字はやはり11位です。難易率が足りなかったのでなく、当日の演技の出来ばえの方で、他の選手に差を付けられてしまいました。
(大技307Cの失敗を除く5演技の平均値は8.20なのですが、それでも上位4人の平均値とは引き離されてしまっています。)
尚、下図は総括表を何とか直感的に把握できないかと工夫してみた新作のグラフです。
3.得点推移

やはり、He Chong選手は最初からぶっちぎりでした。6演技中1本も失敗がありません。2位争いも息詰まる展開だったようですが、演技順がQIN選手の次のデパティエ選手が、プレッシャーを掛けられても掛けられても、それを跳ね返す会心の演技を続けられて銀メダルを獲得されています。
4位のサオーチン選手は、前半やや出遅れられましたが、後半の3演技でばりばり盛り返し、メダルにこそ届かなかったものの、5位以下に大差をつける堂々の結果を残されました。
寺内選手は、やはり4本目の失敗が大きく、残念ながら、この時点でメダルへの挑戦が終わってしまったことが分かります。(順位は上げられなかったものの、最後の演技でも持ち直しは立派だと思います。)
4.演技別得点分布

上位4選手には80点未満の演技が一つもありません。90点台の演技も沢山あります。
5位以下の選手には70点未満の失敗演技が少なくとも1つはあることも分かります。
我等の寺内選手ですが、307Cの失敗を除いてもメダルは苦しかった気がします。
難易率合計が最も低いサオーチン選手は、今年34才。お腹が少し出てきて往年の体型を維持しきれなくなってきていました。ですが、彼の凄さは、難易率3.0程度の「安い」技でことごとく9点以上の演技点を叩き出されたことです。改めて一つ一つの演技のレベルの高さに脱帽です。
5.成績詳細
| 順位 |
選手名 |
国・ 地域 |
演技番号 |
難易率 |
演技点 |
得点 |
合計点 |
| 1 |
HE Chong |
China |
107B |
3.1 |
9.83 |
91.45 |
572.9 |
| 205B |
3.0 |
9.50 |
85.50 |
| 307C |
3.5 |
9.50 |
99.75 |
| 5154B |
3.4 |
9.67 |
98.60 |
| 407C |
3.4 |
9.50 |
96.90 |
| 5156B |
3.8 |
8.83 |
100.70 |
| 2 |
DESPATIE Alexandre |
Canada |
205B |
3.0 |
9.17 |
82.50 |
536.65 |
| 107B |
3.1 |
9.33 |
86.80 |
| 307C |
3.5 |
8.50 |
89.25 |
| 5353B |
3.5 |
9.00 |
94.50 |
| 407C |
3.4 |
8.50 |
86.70 |
| 5154B |
3.4 |
9.50 |
96.90 |
| 3 |
QIN Kai |
China |
107B |
3.1 |
8.67 |
80.60 |
530.1 |
| 205B |
3.0 |
9.50 |
85.50 |
| 5154B |
3.4 |
8.50 |
86.70 |
| 307C |
3.5 |
8.33 |
87.50 |
| 407C |
3.4 |
9.00 |
91.80 |
| 5353B |
3.5 |
9.33 |
98.00 |
| 4 |
SAUTIN Dmitry |
Russian Fed. |
405B |
3.0 |
9.00 |
81.00 |
512.65 |
| 107B |
3.1 |
9.33 |
86.80 |
| 5154B |
3.4 |
8.00 |
81.60 |
| 205B |
3.0 |
9.00 |
81.00 |
| 305B |
3.0 |
9.17 |
82.50 |
| 5353B |
3.5 |
9.50 |
99.75 |
| 5 |
ROZENBERG Pavlo |
Germany |
5253B |
3.5 |
8.00 |
84.00 |
485.6 |
| 407C |
3.4 |
8.00 |
81.60 |
| 205B |
3.0 |
8.17 |
73.50 |
| 307C |
3.5 |
8.33 |
87.50 |
| 5353B |
3.5 |
8.50 |
89.25 |
| 107B |
3.1 |
7.50 |
69.75 |
| 6 |
DUMAIS Troy |
United States |
205B |
3.0 |
8.17 |
73.50 |
472.5 |
| 107B |
3.1 |
9.00 |
83.70 |
| 5154B |
3.4 |
9.00 |
91.80 |
| 407C |
3.4 |
7.50 |
76.50 |
| 307C |
3.5 |
5.50 |
57.75 |
| 5353B |
3.5 |
8.50 |
89.25 |
| 7 |
CASTILLO Yahel |
Mexico |
405B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
462.1 |
| 107B |
3.1 |
8.17 |
75.95 |
| 205B |
3.0 |
6.83 |
61.50 |
| 307C |
3.5 |
7.33 |
77.00 |
| 5353B |
3.5 |
8.50 |
89.25 |
| 5355B |
3.9 |
7.00 |
81.90 |
| 8 |
HAUSDING Patrick |
Germany |
107B |
3.1 |
8.67 |
80.60 |
462.05 |
| 5353B |
3.5 |
6.50 |
68.25 |
| 205B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
| 307C |
3.5 |
7.67 |
80.50 |
| 405B |
3.0 |
8.67 |
78.00 |
| 5154B |
3.4 |
7.67 |
78.20 |
| 9 |
NEWBERY Robert |
Australia |
107B |
3.1 |
8.50 |
79.05 |
461.05 |
| 205B |
3.0 |
7.50 |
67.50 |
| 407C |
3.4 |
7.50 |
76.50 |
| 307C |
3.5 |
7.00 |
73.50 |
| 5253B |
3.5 |
8.33 |
87.50 |
| 5353B |
3.5 |
7.33 |
77.00 |
| 10 |
URAN Juan Guillermo |
Colombia |
205B |
3.0 |
8.17 |
73.50 |
454.5 |
| 107B |
3.1 |
8.33 |
77.50 |
| 307C |
3.5 |
6.83 |
71.75 |
| 405B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
| 5353B |
3.5 |
7.50 |
78.75 |
| 407C |
3.4 |
7.50 |
76.50 |
| 11 |
寺内 健 |
日本 |
405B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
442.5 |
| 5154B |
3.4 |
8.33 |
85.00 |
| 205B |
3.0 |
8.50 |
76.50 |
| 307C |
3.5 |
4.67 |
49.00 |
| 107B |
3.1 |
7.50 |
69.75 |
| 5353B |
3.5 |
8.17 |
85.75 |
| 12 |
COLWILL Chris |
United States |
205B |
3.0 |
8.00 |
72.00 |
425.9 |
| 107B |
3.1 |
8.00 |
74.40 |
| 5353B |
3.5 |
6.00 |
63.00 |
| 407C |
3.4 |
6.83 |
69.70 |
| 307C |
3.5 |
7.67 |
80.50 |
| 5355B |
3.9 |
5.67 |
66.30 |
最後に、禁断の"ればたら"やってみます。
(不愉快な内容になってしまったかもしれないので、読まれない方がいいかもしれません。乞う御容赦)
307Cが見事決まって平均演技点が9.0だとすると、得点は94.50点。5本目の107Bも本来の出来だったとして83.70点(平均演技点9.0)。残りの演技の得点はそのままだとすると、合計得点は501.95点! 念願の500点越えです。
おそらくこの得点が、寺内選手が現時点で望み得たベストの得点のような気がします。ですが、それでもメダルに届きません。男子の試合の場合、上位選手がそう何人も失敗しないことは2004年のアテネ五輪の時でも実証済でした。上位4人の内2人が大失敗してくれた可能性は限りなく低かったでしょう。(陸上の100m×4リレーでは、そんな奇跡が実際に起こりましたが・・・)
寺内選手が最高のチャレンジをされたこと、悔いのない演技をされたことは私も同感です。称賛の念で一杯です。ですが、メダル獲得について言えば、勝負の307Cがズバリ決まっていたとしても、まだ30点の差があったことは事実として受け止めねばならないと思います。